The New Takeuchi Journal Plus+

On The Web Worldwide Since 2001.01.01

超一流のB級サウンド THE MARKETTS / 「OUT OF LIMITS」

 

Out of Limits!

Out of Limits!

  • The Marketts
  • ロック
  • ¥1050

 

“B級”ということばには、不思議な魅力がある。“A級”とかその上の“S級”には決してない魅力といってしまうと手っとり早いが、これでは説明になっていない。もう少し掘り下げてみると、反主流の魅力というものではないかと思う。
決して、多くの人が語り継ぐものではないが、ひっそり咲く花のような愛らしさがあるのだ。それを偏愛する人は、ほぼ例外なく、B級のものを好きになっちゃっている自分のことも気に入っている。あまり人に知られていないものを知っている優越感、自分の好きなものを人が知らないもどかしさ、心の隅ではもっとたくさんのひとが知ってくれることを願ったりもする。多少ゆがんでいるのである。

サーフ・ミュージックはB級だ。そういうと、サーフ・ミュージックファンが怒るかも知れないので、一歩引いて、サーフ・ミュージックは主流ではない。おそらく、20世紀末現在、世界広しといえども、サーフテイストの曲をつくればヒットまちがいなし、もしくはチャートのトップ10に5曲以上サーフ・インストが入っている国はなさそうだ。

竹内ジャーナル編集部資料室を漁ったところ、いくらかの音源と文献が見つかったので、それをもとにサーフ・ミュージックについての考察を進めたい。まず、1963年にリリースされた「SHUT DOWN」というオムニバスアルバム。このアルバムの名を聞いて、「なんでえ、ホットロッド系のアルバムじゃないか」と先走って怒ることなかれ。その解説によると、サーフィンミュージックは62年6月ビーチボーイズの「サーフィン・サファリ」が全米14位に入ったことを機に盛り上がったとされている。

 

シャット・ダウン

シャット・ダウン

 

 

ひとつの文献を鵜呑みにするのもよろしくないので、もう一枚。93年、ドイツのRepertoireレーベルから発売された「THE DEL-FI RARITIES」。ボブ・キーンが57年に設立したサーフバンドを多くかかえたレーベルのレア音源集だ。内容もサーフインスト一色である。このアルバムにおさめられた曲をみると、62~65年の作品である。やはり、火がついたのは62年のようだ。

Various - The Del-Fi Rarities (CD) at Discogs

「SHUT DOWN」の解説に戻ると、おもしろい記述がある。「サーフィン・サファリ」がブレイクした時点で発売元のキャピトルレコードは疑問を抱いていたというのだ。その理由は「サーフィンは海がないとできない。全米で流行するはずがない」というもの。もっともである。そこで、「やっぱり、若者といったら車だろう。道ならどこにでもあるし・・・」という、広告代理店のオッさんが考えそうな発想で、でっち上げられたのがホッドロッド・ミュージック。だから、ほとんど音がいっしょだったのか。名前がちがうだけだもんな。
さて、本題のB級感に戻りたい。私はそのヒントを求め「THE DEL-FI RARITIES」を聞き込んだ。オムニバス版なので、アーティストの個性が失われる。その代わりに、サーフ・インストの特徴をざっくりと見極められると考えたのだ。
16曲目に至ったときのことだ。「ああ、ビーチボーイズの『サーフィン・サファリ』のカヴァーね」。そう思って、クレジットを見た。「エッ、『OKIE SURFER』!ちがう曲・・・といっていいのか!?」。まあ、いいとしよう。このくらいのパクリはしかたがない。ものをつくるのは大変なのだ。たまにはあるさ。

しかし、演奏しているアーティストを見て、また驚かされた。DAVID GATES、デヴィッド・ゲイツだ。解説によると「彼は1963年のある日、オクラホマから友人レオン・ラッセルとともにデル・ファイレーベルを訪れた。彼のポップな作風はこの初期の曲から完璧なもので、ヴォーカルとキーボードを担当している。70年代初頭にはブレッドというグループを結成し、ソフトロックの巨匠となった」とのこと。やっぱり、「ギターマン」、「二人の架け橋」の作者、あのデヴィッド・ゲイツである。

私は思った。「恥部だ」。「知られたくない過去にちがいない」。サーフ・ミュージックはやはり、明るいなかにも暗さが潜んでいた。のちにA級になる人間が、B級であった時代があって、それが録音され保存されているという悲哀。しかも何をまちがったか、遠く日本は千葉県において、それが40年近くたって聴かれてしまう恐ろしさ。うっかり時代に足跡を残すものではない。

時代のあだ花であるサーフミュージックは金の成る木であったゆえ、多くの人が携わった。中には不本意な人もいたと見え、やっつけ仕事も多い。粗製濫造。これはB級になる上で大切な要素だ。濫造ゆえに、なんだか知れないがきらりと光るものができる、いや、できてしまったという方が適切か。それがB級の魅力のひとつである。

サーフ・ミュージックの場合、玉石混合の「玉」といっていいのが、64年発表のTHE MARKETTS 「OUT OF LIMITS」だ。バンドに見せかけているが、その実態はスタジオ・ミュージシャンの集団である。その面子というと、トミー・テデスコ(G)、キャロル・ケイ(B)、レオン・ラッセル(K)、ハル・ブレイン(D)、ジム・ゴードン(D)などなど。超一流である。

内容も「THE DEL-FI RARITIES」なんかと比べると一聴してわかるハイクオリティ。使っている楽器の数がちがう(カスタネット、トライアングル、アコースティックピアノなど)ということからも一線を画している。

そうはいっても、やはりB級度は失われるものではなく、先日見た古い映画「ビキニの怪人」を思い出したりしてしまうのであった。なんとなく、本格的すぎて映画のサントラみたいに聞こえてしまう。やっぱり、超一流のB級サウンドはちがう。ちがいの分かる男でよかった。