読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

The New Takeuchi Journal Plus+

On The Web Worldwide Since 2001.01.01

1900年代のベストアルバムを選ぶ

魔法のiランド 書き物大全集 音楽

あと一週間しか生きられないとして、何を食べるか。「目一杯、鮨を食いたい」、「世界中の珍味を取りそろえて・・」、「毎日、最高のシェフのつくったものを・・」。答えは様々だろう。しかし、本当にこのようなシュチュエーションに陥ったとき、どうするだろうか。私は好きなものを好きなだけ食べたい。具体的に言えば、カレーを飽きるまで食べ続けたい。周りの人は忠告することだろう。「最後なんだからもっと良いものを食べればいいのに。フグとか、キャビアとか・・」。

 お気づきだろうか?この忠告の中に潜む邪念に。「フグ」、「キャビア」嗚呼、これら高級品と呼ばれるもの。我々はフグの白い身を口にするとき、意識することなく「これは高級品。めったに食べられない。ありがたや」と心の中でつぶやいている。フグを食べているのではない。「高級」、「珍味」、「ありがたさ」という言葉を食べて満足しているのだ。忠告に潜む邪念。それは味覚にまつわる付加価値の押しつけである。我々は「高級品」という言葉を食べたいのか?そして、それで満足するのか?
 否、決してそんなことは、私に限ってはない。食欲と味覚、それは性的衝動にも似た暴力性を湛えたものだ。「うまい」、「腹一杯」。この二つの単語を心から発したいがために食事をとる。二つの単語への最短距離、そして最高到達点をめざす。いわば、食事エクスタシー。

 しかるに我々の現況を省みれば、いかがなものか。彼女と気取ったフランス料理を食べる。はっきり言って、「まずい」、そして「腹にたまらない」。これを食事と言っていいものか。私は、はなはだ懐疑的にならざるを得ない。「おいしかったね」。彼女の笑顔。心の中で私は思う。「だまされている。さもなきゃ、高かったばかりに『おいしい』と言わざるを得ない」。あわれだ。この迷える子羊を救わねば。二人連れ立ちラーメン屋に。そしてスープのよく絡んだ麺をすする。顔を見合わせる二人。同時に口を開いて、出た言葉は「さっきのフランス料理屋ってさあ・・」あとは言うまい。真実に目覚めたものによけいな説明はいらない。

 前置きが長くなりました。ぼくは1900年代の名盤を選んでいました。ビートルズストーンズツェッペリン、あ、ボウイも入れとくか。こんな調子でした。そして、できあがったCDの山を見て気づいてしまったのです。「これって、ただロックの歴史をなぞっただけじゃん」。山はガラガラと崩れました。
 で、またあるとき。「ビートルズストーンズツェッペリン 。あ、イギリスばかりだ。バランスとってアメリカと日本から探すか」。ん?なんかちがうぞ。バランス?なんのこっちゃ。そんなことは目的じゃなかったはず。バベルの塔は神の雷を受け、がれきの山に。

 三度目に、ぼくは気づきました。「好きなもん選んだる。ロックの歴史、国境も関係あるか。ここまで教養が災いして、時間を無駄にしてしまった。だが、ついに時は来た。アルバムエクスタシーをおれはめざす」。ようやっとスタートラインです。ドラムロールが幕開けを告げます。「レイディース・アンド・ジェントルマン!二〇世紀の最高のアルバムは・・」。ここから先は夢心地。はやくもエクスタシー。

1.MARVIN GAYE /「WHAT'S GOING ON」(1971、米)
 トーマス・マンは詩人というものを「自分自身のことを語ることが、すなわち世界を語ることにつながる者」と定義した。タミー・テレルの死、ベトナムに向かう弟、マーヴィンは、個人的な行き場のない悲しみと混乱を余すところなく昇華させた。人間の弱さからスタートし、結果的に狂った世界に拮抗するもう一つの世界を作り上げた。それは可能性に満ちた世界である。
「神よ、もうたくさんなんだ」、「だから、今ここで愛を降り注ぐ方法を考えよう」。反抗と再構築。「今ここで」=Standing here today。これ以上に世界を語っている詩は、あまり思いつかない。
 アルバム全編を覆うストリングスと多重コーラス。そこにパーカッションとボーカルが絡む。マーヴィンの声はシャウトすることなく、スムーズに曲を運んでいく。荒ぶることなく強さを感じさせ崇高な雰囲気すら漂う。アルバムを聴き始めると最終曲「INNER CITY BLUES」まで、息を潜めて聴き入ってしまう。そして、最終曲の最後の方でファルセットで叫ばれる「アーォッ!」という声には心を射抜かれるような、痛切な想いが満ちており胸をかきむしられる。 

 

2.THE CLASH / 「LONDON CALLING」(1979、英)
 有名なクラッシュの大出世作。十九曲の大盤振る舞いで音楽的興味の範囲の広さを見せつける。この広さには、ドラムのトッパー・ヒードンの功績が大。「人間ドラムマシーン」とプロデューサーに言わしめた正確無比のドラミングは驚異的。Strummer/Jonesのソングライティングチームも絶好調で量産体制を築いている。
 クラッシュの魅力の一つはその歌詞であり、アルバムには収録されていないものの「ハマースミス宮殿の白人」の中では、「ハッ、おかしいと思わねえか。反抗を金に変えてやがる」と歌っている。矛盾を自覚したうえでのロック・バンドのあり方を体現したのが彼らだ。三枚組アルバムを一枚分の価格で売り出し、レコード会社に多大な借金をつくったりしながらも、誠実さとは何かということを訴え続けた。 

London Calling

London Calling

 

3.椎名林檎/「無罪モラトリアム」(1999、日)
 九〇年代の最後になって恐るべき才能が、ここ日本に生まれた。正直言って欠点のようなものが見あたらない。強いていえばロマンチックに過ぎるところか。その部分も現在のところプラスに作用している。オーソドックスにロックと言ってしまうには、もったいない贅沢なアルバムだ。ロック以外にソウルとジャズの影響が強く感じられるが、エフェクトの使い方はRADIOHEADに一番影響を受けている気がする。曲ごとにちがう一面を見せ、次はどんな曲がでてくるのか聴いていて非常に楽しい。そして、その期待に120%答えてくれる。 

 

4.JEFF BUCKLEY/「GRACE」(1994、米)
 掛け値無しの天才。そのヴォーカルは父、TIM BUCKLEYゆずり。その声の凄さに加え楽曲の複雑さにも注目したい。およそ似ている曲というものが見あたらない。彼が声を発すると、曲は彼のものとなってしまう。十年くらい経ったら九〇年代最高のアーティストと呼ばれる可能性も大いにあると私は思っている。それにしても、夭折が惜しまれる。彼はミシシッピ河に飲み込まれる直前、「胸いっぱいの愛を」を口ずさんでいたそうだ。

Grace

Grace

 

5.RADIOHEAD/「OK COMPUTER」(1997、英)
 息絶えたかに見えたプログレッシヴ・ロックを見事蘇生。しかも、ループやサンプリングを多用した非常に洗練された方法であることが立派。全体を覆う冷たさの中でトム・ヨークのヴォーカルは非常に生々しく、息づかいが聞こえるほどだ。パンク以降、音楽の成熟は非常に格好悪いものとされてきたが、このような格好いい形で提示されると考え方を変えざるを得ない。 

 

6.V.A./「SATURDAY NIGHT FEVER」(1977、米)
 この選び方は少々反則か?有名映画のサウンドトラック。しかし、内容はBeeGeesのアルバムのようなものである。ディスコナンバーの魅力をこれでもかというほどに詰め込んでいる。しかし、ここに見られる統一感はアレンジの妙によるものだ。どんな曲でもディスコっぽくできる。例えばこのアルバムに収録された、ベートーベンの「運命」。決してアーティスティックとは言えないだろう。それでも、こんなアレンジを生み出した二十世紀の人間はけっこうすごい。 

Saturday Night Fever (The Original Movie Soundtrack) [Remastered]

Saturday Night Fever (The Original Movie Soundtrack) [Remastered]

  • Various Artists
  • サウンドトラック
  • ¥1600

 7.THE BEACH BOYS/「PETSOUNDS」(1966、米)

 数々の伝説に彩られたBEACH BOYSの作品。実質的にはBrian Wilsonのソロ色もかなり強い。他のメンバーはほぼコーラスという楽器にすぎない。それでも「GOD ONLY KNOWS」でリードをとるCarlの声だけは別格。あまり言われないがこのグループの中で一番のヴォーカルは彼だろう。ソフトで丁寧。柔軟剤の効いた肌ざわりの良い声だ。 

 8.Jackson Brown/「FOR EVERYMAN」(1973、米)

 男の弱さを歌わせたらピカイチのシンガーソングライター、二枚目のアルバム。イーグルスに提供した「TAKE IT EASY」の自演版から始まり、ラストの「FOR EVERYMAN」まで駄曲一切無しの傑作。ゲストにエルトン・ジョンジョニ・ミッチェルスプーナー・オールダム、デヴィッド・クロスビーなど超豪華陣を引き連れているが、あくまで主役は譲らない。 

 9.Laura Nyro/「ELI AND THE THIRTEENTH CONFESSION」(1968、米)

 フィフス・ディメンション、スリー・ドッグ・ナイトへの曲提供で有名なN.Y.出身の才女。一つの曲の中でころころと表情を変える、変化に富んだ楽曲。ソウルフルで力強くレンジの広い歌声。知的でユーモアにあふれた詩。幅の広さこそが彼女の魅力で、その広さを使い切っている。それでいて、無理をした様子にも見えない佇まいが、さらに格好いい。  

Eli and the Thirteenth Confess

Eli and the Thirteenth Confess

 

 10.THE DOORS/「THE SOFT PARADE」(1969、米)

 ドアーズの評判の悪い四作目。アルバム半数を占めるロビー・クリーガーの聴きやすい楽曲。しかし、このポップなサウンドに載ったジム・モリソンの声がすごい。とくに「SOFT PARADE」は彼ら独特の長尺ナンバーにもかかわらず八分四十秒が短く感じる。フェリーニの映画を意識したジャケットをセカンドアルバムに使った彼らには本来、色彩豊かなものが似合うのかも知れない。

The Soft Parade

The Soft Parade

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

11.STIEVIE WONDER/「INNER VISIONS」(1973、米)
12.THE BEACH BOYS/「THE BEACH BOYS IN CONCERT」(1973、米)
13.SLY&THE FAMILY STONE/「FRESH」(1973、米)
14.THE MIlLENNIUM/「BEGIN」(1968、米)
15.BOB DYLAN/「OH MERCY」(1989、米)
16.XTC/「ORANGES&LEMONS」(1989、英)
17.A TRIBE CALLED QUEST/「PEOPLE'S INSTINCTIVE TRAVELS AND THE PATH OF RHYTHM」(1990、米)
18.THE BYRDS/「YOUNGER THAN YESTERDAY」(1967、米)
19.MARVIN GAYE/「I WANT YOU」(1976、米)
20.VAN MORRISON/「TUPELO HONEY」(1971、英)
21.KING CRIMSON/「LARKS' TONGUES IN ASPIC」(1973、英)
22.CARPENTERS/「A SONG FOR YOU」(1972、米)
23.STEREO MC'S/「CONNECTED」(1992、英)
24.THE TEMPTATIONS/「PSYCHEDELIC SHACK」(1970、米)
25.THUNDERCLAP NEWMAN/「HOLLYWOOD DREAM」(1969、英)
26.EAGLES/「ONE OF THESE NIGHTS」(1975、米)
27.JURASSIC5/「LP」(1998、米)
28.PRETENDERS/「THE ISLE OF VIEW」(1995、英)
29.NILSSON/「HARRY」(1969、米)
30.THE HIGH LLAMAS/「GIDEON GAYE」(1993、英)